翌日もアントニウスは現れたが、食事は豪華ではあったが、
昨日と変わらぬように見え、
『食べ終えたが、これが1千万セルステルティとは思えぬが?』と言うと、
『まだ、デザートがございますわ』
そこに、甘酢の入った飲み物の器が供されると、
クレオパトラは、大きな真珠の耳飾りを耳からはずし、
『これは、プトレマイオス家伝来の真珠』と言って、
酢が入った器にポンと入れると、
真珠は白い泡を立てながら溶けていってしまった。
クレオパトラはそれを一気に飲み干し、
『もう一つありますの。これも当家伝来のもの』
と言いつつ、
もう一つの器に入れると、同じように溶けていき、
アントニウスにそれを奨めた」という話。
実際のところ、食酢には、そこまでの溶かす力はない。
もし、溶かすことができるような食酢であれば、
なま身の人間が飲んで、変調をきたさないはずはない。
剛毅なエピソードだが、後世 (おそらくネロ帝ごろ) の作り話のようだ。
クレオパトラは、政略で動いたとも言われるが、
伝来のすべての財宝を捨ててまで、
一兵卒から総督にまでなったアントニウスを慕っていたのは事実のようだ。
この話は、そのようなことを暗に示すエピソードなのかもしれない。